『大・会・食』第二話 平安

第二話 平安、粥と詩と火の間

火は、言葉を持った。
それは縄文の湯気が空に溶けた翌朝のことだった。

男が卓上灯炉の火皿を掃除していると、
どこからともなく、
ふわりと香る白米の匂い。
そして、
「お粥にいたしましょうか」
という、やけに丁寧な声。

振り返ると、
そこには平安の公家が立っていた。

彼は、
火を見て詩を詠み、
米を見て季節を語り、
粥を見て人生を悟った。

「この器、なかなか風雅ですな。
火の入りも柔らかく、
湯気の立ち方が、まるで春の霞のよう。」

男は、
この人は何を言っているのかよくわからなかったが、
とりあえず火皿を整え、
米を渡した。

平安の料理
「白粥に梅干し、そして一首」

公家は、
米を研ぎ、
水を注ぎ、
卓上灯炉に土鍋を置いた。

火は静かに灯り、
湯気が立ち上がる。

そして彼は、
その湯気を見ながら、
一首詠んだ。

「霞立つ 春の火皿に 米しずく
湯気の向こうに 君の笑み見ゆ」

男は、
「……いや、俺笑ってないけど」
と心の中で思ったが、
その場の空気があまりにも雅だったので、
黙って頷いた。

火の哲学
「火は、詩を生むもの」

平安人にとって、
火はただの熱源ではない。
“詩を蒸すもの”である。

火の強さ、
湯気の高さ、
鍋の音、
それらすべてが、
言葉を生む。

そして、
その言葉がまた火を育てる。

そして、粥が炊き上がった瞬間
文明は、言葉を持った。

男は、
その粥を一口味わい、
そして小さく呟いた。

「……これは、詩だな。」