寓話:湯気が戻した時間 2

第二部「小さな火」

ある夜、
彼女はふと、卓上灯炉を手に入れた。

箱を開けた瞬間、
土の匂いがふわりと立ち上がる。
それは都会の部屋では滅多に触れない、
どこか懐かしい温度を含んだ匂いだった。

手のひらにそっと乗せると、
器は驚くほど静かで、
まるで長い時間を眠っていたものが
ようやく目を覚ましたかのようだった。

彼女はテーブルの上に置き、
ゆっくりと息を整えた。
火を扱うときの、
あの“ひと呼吸”が自然と生まれる。

小さな固形燃料を皿に置き、
火皿の位置を指先で微調整する。
その所作は、
自分でも気づかないほど丁寧だった。

マッチを擦ると、
細い光が一瞬だけ走り、
次の瞬間、
ぱち、と小さな音がした。

火が立ち上がり、
卓上灯炉の内側で
静かに揺れ始める。

その揺らぎに合わせて、
部屋の空気がわずかに震えた。

その瞬間、
胸の奥の空洞に、
ゆっくりと温度が流れ込んでくるのを感じた。

火はただ燃えているだけなのに、
彼女は息を呑んだ。

卓上灯炉の丸い縁に映る光が、
彼女の指先を柔らかく照らす。
その光は、
まるで「ここにいていい」と
静かに告げているようだった。