寓話:湯気が戻した時間 1

第一部 乾いた部屋

彼女は、都会の真ん中で働いていた。
オフィス街のビルに囲まれたワンルーム。
深夜になっても消えない白い光が窓の外に漂っている。

けれど、その光は
彼女の心を温めてはくれなかった。

仕事は終わりが見えず、
人間関係は丁寧だけれど浅く、
部屋は整っているのに、
どこか“音のない砂漠”のように乾いていた。

帰宅してバッグを置くと、
胸の奥に静かな空洞が広がる。

痛みではない。
ただ、何かが抜け落ちたままの感覚だけが
ゆっくりと沈んでいく。

スマホを眺めても、
お気に入りのドラマを流しても、
その空洞は少しも満たされなかった。