
寓話 ー 形を変えても、私は土のまま —
昔、ある谷に、
静かに眠る土があった。
土は、誰かに褒められることもなく、
誰かに名を呼ばれることもなく、
ただそこに在り続けていた。
けれど、土は知っていた。
「私は、まだ何者でもない。
けれど、何にでもなれる。」
ある日、職人がやってきて、
土を掘り起こし、手のひらで確かめた。
職人は言った。
「この土は、火に耐える。
ならば、レンガにしよう。」
土は焼かれ、赤くなり、
硬く、強く、積み上げられた。
壁となり、家となり、
人々を風雪から守った。
土は思った。
「私は強さになった。」
しかし別の日、別の職人がやってきて、
別の谷の土を手に取り、言った。
「この土からできた岩は柔らかい。
ならば、軟石になる。」
土は切り出され、積まれ、
冷たい風の中で静かに呼吸する建物になった。
土は思った。
「私は柔らかさになった。」
さらに別の職人は、
土を練り、形を整え、火にくぐらせた。
「この土は水を運べる。
ならば、陶管にしよう。」
土は地下を走り、
見えないところで人々の生活を支えた。
土は思った。
「私は流れになった。」
強さにもなり、
柔らかさにもなり、
流れにもなった。
けれど、どれほど形を変えても、
土は静かに気づいていた。
「私はずっと土のままだ。
形は変わっても、
私の本質は変わらない。」
そして土は悟った。
「人は私を素材と呼ぶ。
けれど私は、未来の器そのものだ。」