
昔、海辺のはずれに、
風に吹かれ続ける砂があった。
砂は、土のように固まることもなく、
石のように積まれることもなく、
ただ風に運ばれ、波に洗われ、
形を持たずに生きていた。
砂は思っていた。
「私は、何にもなれない。
私は、ただ流されるだけだ。」
ある日、旅人が砂をすくい上げ、
手のひらでそっと眺めた。
旅人は言った。
「砂よ、お前は形がない。
だからこそ、どこへでも行ける。」
砂は驚いた。
自分が“弱い”と思っていた部分が、
実は“自由”だったことに気づいたからだ。
旅人は砂を集め、
火の中へと入れた。
砂は熱に震え、
溶け、
光を帯び、
やがて透明な板になった。
それは、ガラスだった。
砂は思った。
「私は光になった。」
別の職人は、
砂を混ぜ、固め、
高い塔の基礎にした。
砂は思った。
「私は支えになった。」
また別の人は、
砂を道に撒き、
冬の凍った地面を歩きやすくした。
砂は思った。
「私は道になった。」
光にもなり、
支えにもなり、
道にもなった。
けれど、どれほど形を変えても、
砂は静かに気づいていた。
「私はずっと砂のままだ。
形を持たないからこそ、
私は何にでもなれる。」
そして砂は悟った。
「人は私を流される粒と呼ぶ。
けれど私は、未来を透かす素材だ。」