『大・会・食』 序章

『大・会・食』

序章 火の器が生まれた日

むかしむかし……と言いたいところだが、
これはつい最近の話である。
令和の空気がまだどこか湿っていて、
SNSのタイムラインが猫とラーメンと政治で渋滞していた頃。

北海道の片隅で、
ひとりの男が静かに“文明のスイッチ”を入れようとしていた。

男は、
最新のAIも、
世界情勢も、
流行のスイーツも、
ぜんぶ横目にしながら、
ただひたすらに
小さな土台にタイルを貼っていた。

「……ふむ。今日のタイルは、青だな。」

誰に聞かせるでもなく呟くその声は、
妙に落ち着いていて、
妙に楽しそうで、
妙に未来を変えそうだった。

なぜなら、
そのタイルの下には、
文明を横断する“火の器”が眠っていたからだ。

そう、卓上灯炉である。

男は知っていた。
この器が、
やがて縄文人を呼び、
平安の公家を呼び、
武家を呼び、
ルネサンス貴族を呼び、
中東の学者を呼び、
インドの賢者を呼び、
北欧の王族を呼び、
アフリカの料理人を呼び、
南米の民を呼び、
現代の若者を呼び、
そして最後には——
宇宙飛行士まで呼び寄せることを。

だがこの時点では、
本人はそんな未来をまったく意識していない。

ただ、
タイルを貼り、
火皿を置き、
燃料をそっと撫でながら、
こう呟いただけだった。

「……まあ、これで何か美味しいものが作れればいいか。」

その瞬間、
歴史が静かに揺れた。

文明の地層がざわめき、
時代の境界がふっと薄くなり、
遠い昔の人々も、
まだ見ぬ未来の人々も、
同じ一点に視線を向けた。

小さな火。
小さな器。
小さな始まり。

だが、
この小さな器が、
やがて世界中の料理と文化と笑いと涙を
ひとつの食卓に集めることになる。

その名も——
『大・会・食』

文明史上もっとも平和で、
もっとも美しく、
もっとも可笑しく、
もっともカオスな宴が、
いま静かに幕を開けた。