
第四部「潤う夜」
スープを口に含むと、
温度が舌から喉へ、
そして胸の奥へと流れ込んでいく。
乾いていた場所に、
静かに血が戻ってくるようだった。
その夜、
彼女は久しぶりに深く眠った。
翌朝、
部屋の空気が昨日より柔らかいことに気づく。
胸の奥の空洞は、
まだ完全には埋まっていない。
けれど、
その中心に小さな温度が灯っている。
その温度が、
彼女の一日をそっと支えてくれた。
そして夜。
彼女はまた卓上灯炉に火を灯した。
火を見つめていると、
胸の奥で何かがほどけていく。
固く結ばれていた糸が、
静かに緩んでいくようだった。
気づけば、
頬を一筋の涙が伝っていた。
悲しみではない。
寂しさでもない。
ただ、
乾いていた場所に温度が戻っただけだった。
涙は、
その温度を確かめるように
ゆっくりと落ちていった。
彼女は、言葉にならない涙とともに、その時間をかみしめた。
その心は、今ここにある温度へ向けた、静かな感謝だった。