料理の匂いが残る夜

その夜、部屋にはまだ温かい匂いが残っていた。
夕食の余韻が、静かに漂っている。

男は椅子に腰を下ろし、
その匂いを胸の奥で受け止めた。

今日が終わる前の、
やわらかな締めくくりの時間。

卓上灯炉に火を灯す。
ぱち、と小さな音。

炎が匂いに寄り添うように揺れ、
クッカーから、
しだいに湯気が立ちのぼる。

猫は鼻をひくつかせ、
満足そうに丸くなっている。
尻尾が、ゆっくりと揺れていた。

男は湯気の向こうに、
今日の輪郭をそっと思い返す。

そして、男は淹れたてのコーヒーを一口味わい、その輪郭の向こうにいる誰かに呟く。

「友よ、残る匂いは、
今日が確かにあった証だ」

トゥイーブ。

余白の方へ