寓話 火を囲むことで、記憶は器になる

昔、火が生まれた頃、
同時に世界には素材が眠っていた。

そしてそれぞれが、
それぞれの時間を生きていた。

土は、湿り気の中で眠り、
砂は、風に運ばれながら漂い、
軟石は、沈黙の中で重さを蓄え、
レンガは、焼かれた記憶を持ち、
タイルは、表面に人の手の痕跡を残し、
セメントは、混ざり合うことで形を得て、
モルタルは、手の記憶を受け取って固まり、
鉄は、見えないところで力を出し続けていた。

それぞれが、
それぞれの役目を果たしながら、
互いに交わることなく、
ただ静かに存在していた。

ある日、
その中心に、
火が灯された。

小さな火だった。

けれど確かに、
素材たちの記憶を呼び起こす火だった。

土は思った。
「私は、この火に焼かれたことがある。」

砂は思った。
「私は、この火によってガラスになったことがある。」

軟石は思った。
「私は、この火に耐えたことがある。」

レンガは思った。
「私は、この火によって形を得た。」

タイルは思った。
「私は、この火の熱で表面を整えられた。」

セメントは思った。
「私は、この火のそばで混ざり合った。」

モルタルは思った。
「私は、この火の記憶を手から受け取った。」

鉄は思った。
「私は、この火の力を内側で受けてきた。」

素材たちは、
火の周りに静かに集まり、
互いに語り合った。

それぞれが、
それぞれの火との記憶を持ち寄り、
やがて、火を囲む器をつくった。

その器は、
形を持たないまま、
ただ素材たちの記憶でできていた。

火は言った。
「私は、あなたたちの記憶の中心だ。
あなたたちが集まることで、
私は文化になる。」

素材たちは、
火を囲みながら、
それぞれの役目を終え、
それぞれの記憶を残した。

そして火は、
その器の中で静かに燃え続けた。

誰かがその火を見て、
言った。

「これは、ただの火ではない。
素材たちの記憶が燃えている。」

火は、
素材たちの時間を灯し、
素材たちの声を照らし、
素材たちの沈黙を温めた。

そしてその火は、
文化の火床となった。