寓話 折れずに曲がる、見えないところで支える

昔、ある製鉄所で、
火花の中から一本の棒が生まれた。

それは、熱された鉄を引き延ばし、
冷やし、
まっすぐに整えられた、
鉄筋だった。

鉄筋は思っていた。

「私は、ただの棒だ。
硬くて、無口で、
誰にも見られない。」

ある日、職人が鉄筋を手に取り、
コンクリートの型枠の中に並べた。

鉄筋は、
他の鉄筋と交差し、
結ばれ、
縛られ、
やがてコンクリートに包まれた。

鉄筋は思った。

「私は、見えなくなった。
けれど、ここからが始まりだ。」

建物が立ち上がるたびに、
人々がその中を歩くたびに、
鉄筋は静かに力を出し続けた。

誰にも見られず、
誰にも触れられず、
ただ、折れずに曲がりながら支えた。

ある日、地震が来た。
建物が揺れ、
壁がきしみ、
床が震えた。

鉄筋は、
その揺れを受け止め、
曲がりながらも、
折れなかった。

「私は、見えないところで支えるために生まれた。」

別の建物では、
鉄筋が錆びていた。
長い年月の中で、
水が入り、
空気が触れ、
鉄筋は少しずつ朽ちていた。

けれど、
その錆びた鉄筋を見た職人は、
言った。

「この鉄筋は、長く支えてくれた。
この錆は、時間の勲章だ。」

鉄筋は思った。

「私は、誰にも見られないまま、
誰かの命を支えていた。」

そして鉄筋は悟った。

「人は私を構造材と呼ぶ。
けれど私は、
沈黙の芯だ。」