
昔、ある工場の片隅に、
灰色の粉が静かに眠っていた。
それは、石を砕き、
焼き、
さらに細かくすりつぶして生まれた、
セメントという粉だった。
セメントは思っていた。
「私は、ただの粉だ。
形もなく、重さもなく、
誰の目にも止まらない。」
ある日、職人がセメントをすくい上げ、
水を注ぎ、砂と石を混ぜ合わせた。
すると、セメントは驚いた。
自分ひとりでは何もできなかったのに、
水と砂と石が加わると、
ゆっくりと、
確かに、
固まり始めた。
職人は言った。
「お前は、ひとりでは固まらない。
けれど、仲間と出会えば、
どんな形にもなれる。」
セメントは壁になり、
柱になり、
橋になり、
地面を支える基礎にもなった。
セメントは思った。
「私は、つながりで強くなる。」
別の日、別の職人は、
セメントを薄く延ばし、
床をつくった。
人々が歩くたびに、
その足音がセメントに伝わった。
セメントは気づいた。
「私は、人の重さを受け止めるために生まれたのかもしれない。」
さらに別の人は、
古い建物のひび割れに、
セメントをそっと塗り込んだ。
セメントは思った。
「私は、傷を埋めることもできる。」
強さにもなり、
支えにもなり、
癒やしにもなった。
けれど、どれほど形を変えても、
セメントは静かに悟った。
「私は、ひとりでは固まらない。
けれど、誰かと混ざり合えば、
未来を支える力になれる。」
そしてセメントは思った。
「人は私を建材と呼ぶ。
けれど私は、つながりの器だ。」