
二つ目の火がゆっくりと弱まり、
鍋の中の卵がとろりと仕上がったころ、
部屋には静かな余韻が満ちていた。
青・白・茶のタイルをまとったミニ灯炉は、
二度目の仕事を終えたばかりで、
まだほんのりと温かい。
「ねえ」
彼女がパンをちぎりながら言った。
「来年の記念日、どうしてると思う?」
彼は少し考えてから、
灯炉の口元に残る青い焔を見つめた。
「たぶん、こうしてる気がする」
「また、この火を囲んでるってこと?」
「うん。派手じゃないけど、これが一番落ち着くから」
彼女は笑った。
その笑い方は、
“未来に不安がない人の笑い方”だった。
火はもうほとんど消えかけている。
それでも、タイルの表面には
焔の名残が柔らかく映っていた。
「いつかさ」
彼が言った。
「もっと広い部屋に引っ越したら、
この灯炉、どこに置こうか」
「キッチンじゃなくて、リビングがいいな」
「なんで?」
「だって、火を囲む時間って、料理だけじゃないでしょ」
その言葉に、
彼はゆっくりとうなずいた。
火は急がない。
未来も急がない。
ただ、火は火の速度で、
人は人の速度で、
これからの時間を温めていく。
やがて焔が完全に消えると、
部屋には静けさだけが残った。
けれど、二人の間には
確かな温度があった。
ミニ灯炉は、
ただ料理をするための道具ではない。
二人が未来を語るための、小さな灯り なのだ。
その夜の会話は、
ただの未来予想ではなく、
二人が“これからも同じ火を囲む”と静かに誓う時間 だった。