『大・会・食』第十八話 宇宙飛行士

第十八話 宇宙飛行士、無重力の火の間

それは御膳の火が古層と接続された翌朝のことだった。
男が卓上灯炉の火皿を見つめていると、
どこからともなく、
「その火、宇宙でも灯りますか」
という、やけに静かな声。

振り返ると、
そこには宇宙服を着た人物が立っていた。
肩には酸素、
手には鍋、
目は重力のない空間に火を見ていた。

彼は、
火を見て地球を思い、
鍋を見て人類を感じ、
湯気を見て未来を思い出した。

「この器、地球の寸法ですね。
まるで文明の単位のよう。」

男は、
この人がどこへ行こうとしているのかよくわからなかったが、
とりあえず火皿を差し出した。

宇宙の料理
「真空調理された米と、再構成された出汁と、香りの粒子」

宇宙飛行士は、
米を加圧し、
出汁を再構成し、
香りを粒子で添え、
卓上灯炉に鍋を置いた。

火は無重力の中で灯り、
湯気が立ち上がる。

その湯気は、
まるで地球の記憶のようだった。

火の哲学
「人類がどこへ行っても、一合は一合」

宇宙飛行士にとって、
火はただの熱ではない。

“文明の最小単位”である。

火の寸法、
鍋の容量、
湯気の速度、
それらすべてが、
一合になる。

そして、
その一合がまた火を育てる。

そして、鍋が煮えた瞬間
文明は、存在になった。

男は、
その鍋を一口味わい、
そして小さく呟いた。

「……これは、地球の味だな。」