『大・会・食』第十六話 個の尊重

第十六話 個の尊重、一人一つの火の間

火は共有しないが、場は共有できる。
それは異文化の鍋が交差になった翌朝のことだった。

男が卓上灯炉の火皿を並べていると、
どこからともなく、
「その火、誰のものですか」
という、やけに静かな声。

振り返ると、
そこには五人の人々が立っていた。

それぞれの肩には違う布、
手には違う鍋、
目はそれぞれの火を見ていた。

彼らは、
火を見て自分を思い、
鍋を見て自分を表し、
湯気を見て他者を受け入れた。

「この器、混ざらないですね。
まるでそれぞれの火が尊重されているよう。」

男は、
彼らが何を守ろうとしているのかよくわからなかったが、
とりあえず火皿を並べた。

五人の料理
「それぞれの素材、それぞれの火」

一人は豆を煮て、
一人は魚を焼き、
一人は葉を蒸し、
一人は根を炒め、
一人は果を温めた。

それぞれの鍋は、
それぞれの卓上灯炉に置かれた。

火は静かに灯り、
湯気が立ち上がる。

その湯気は、
まるで五つの言語が同時に語られているようだった。

火の哲学
「火は共有しないが、場は共有できる」

彼らにとって、
火はただの熱ではない。

“個を守るもの”である。

火の距離、
鍋の違い、
湯気の方向、
それらすべてが、
場をつくる。

そして、
その場がまた火を育てる。

そして、鍋が煮えた瞬間
文明は、場になった。

男は、
それぞれの鍋を一口ずつ味わい、
そして小さく呟いた。

「……これは、尊重の味だな。」