
寓話:水の仕事
水は、山の影が落ちる谷間で、
ひとつの石に語りかけていた。
「あなたは動かないように見えるけれど、
私はあなたの形を、少しずつ変えているのですよ。」
石は答えなかった。
けれど、水はそれでよかった。
「急がなくていいのです。
私は待つことが得意ですから。」
水は、石の表面を静かに撫でた。
季節が巡るたび、
春分の光が差し込み、
夏至の影が濃くなり、
秋分の風が冷たくなり、
冬至の夜が深くなる。
そのすべてを、水はただ受け取った。
「人は、変わることを怖れるけれど、
変わらないものなど、本当はどこにもありません。」
石はやはり答えなかった。
けれど、水は知っていた。
石の沈黙の奥で、
わずかな変化が確かに起きていることを。
「あなたが気づかなくても、
私はあなたを少しずつ丸くしていきます。
それは壊すためではなく、
あなたが本来の形に戻るためなのです。」
水は今日も流れ続ける。
急がず、押しつけず、
ただ触れ、ただ待ち、
ただ世界を少しずつ整えていく。
やがて石は、
自分が丸くなったことに気づくだろう。
そのとき初めて、
水が語っていた意味を知るのかもしれない。